むつざわスマートウェルネスタウンは、千葉県長生郡睦沢町で「健幸まちづくり」をテーマにした、道の駅、温浴施設、レストラン、カフェ、サイクルステーション、戸建住宅などから構成される複合施設である。地域資本を主体にした企業体が20年間のPFI事業(民間資金を活用した社会資本整備)として2019年9月から運営をスタートしており、道の駅の物販、温浴施設などは、独立採算事業として運営されている。2016年6月に地域新電力会社として設立されたCHIBAむつざわエナジーは、隣接するむつざわスマートウェルネスタウン向けに2019年9月から電力供給を開始した。
地元の南関東ガス田から産出する天然ガスを燃料にしたガスエンジンコージェネ(以下、コージェネ)の他、太陽光発電、太陽熱で作った電気と熱の面的供給を行っている。事業主体が地域資本から構成されているため、需要家側のコスト削減分以外に、事業利益についても地域に還元することができている。
名称 | むつざわスマートウェルネスタウン・道の駅・つどいの郷 |
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事業者名 | 株式会社CHIBAむつざわエナジー |
所在地 | 千葉県長生郡睦沢町森2-1 |
敷地面積 | 28,600m² |
開業年月 | 2019年9月(エネルギー供給事業開始) |
施設概要 | 直売所、温浴施設、レストラン、カフェ、サイクルステーション、ドッグラン、情報発信コーナー、戸建住宅(33戸) |
①地元産の天然ガスを利用した自営線敷設による熱電併給
②町の防災拠点としてのBCP対策
③系統連携困難な地域での再エネ・分散型電源の導入
地元産の天然ガスを利用した熱電供給
コージェネに供給される天然ガスは、千葉地域の地下にある南関東ガス田から産出したものであり、地下水から水溶性ガスを取り出し、長南町ガス事業により都市ガスとして供給されている。
ガス採取後のかん水は、コージェネの排熱で加温して温浴施設で温泉として利用している国内でも珍しい事例で、地元産の天然ガスと地下水を無駄なく100%利用している。
コージェネ排熱は約70℃の温水で取り出し排熱利用ボイラに接続し、温浴施設の給湯加温に利用している。加温には太陽熱温水器も併用し、給湯負荷の60〜90%程度を賄っている。
コージェネで発電した電気は、むつざわスマートウェルネスタウン内の道の駅と住宅エリアに自営線により供給を行う。自営線は景観向上と防災性向上の観点から全て地中化している。通常時で、電力需要の75%程度をコージェネ発電と太陽光発電による電力で賄い、25%程度を商用系統からとして逆潮流しないように運用している。
メーカー | TEDOM社 |
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モデル名 | Cento T 80 |
燃料種別 | 都市ガス(南関東ガス田産天然ガス) |
定格出力 | 85kW |
台数 | 2台 |
温水取出温度 | 70℃(低温水) |
効率 | 総合:87.3% 発電:35.1% 排熱回収:52.2% |
その他 | 停電対応(BOS)仕様機 年間運転時間:約4,000時間 |
町の防災拠点としてのBCP対策
むつざわスマートウェルネスタウンは国土交通省が選定する国の「重点道の駅」及び防災拠点に指定されており、非常時にもコージェネ及び自営線によりエネルギー供給を可能としている。
2019年9月の台風15号による強風で東京電力の送配電線が損傷し、睦沢町を含む千葉県広域で大規模な停電が発生。県内各地で鉄塔設備の倒壊(君津市)、倒木による電柱倒壊(四街道市)など甚大な被害が出た。むつざわスマートウェルネスタウンも平時は系統連系を前提に運用しているため一時的に停電したが、タウン内の電気設備に損傷、浸水、漏電などがないことを確認後、午前9時には1台のコージェネにより、道の駅及び住宅エリアに送電を開始することができた。また、翌日の午前10時には、コージェネの排熱を利用した温水シャワーを周辺住民の方々に提供することも可能となった。同エリアで停電が続くなか、延べ1000人以上が訪れて温水シャワーを利用し、携帯電話などの充電も行うことができたことは、運営開始直後のタイミングにおいて、周辺住民の方々の期待に早々に応えることとなった。
CHIBAむつざわエナジーは、次世代に向けたレジリエンス社会構築へ向け強靭な国づくり、地域づくり、産業づくりに資する活動、技術開発、製品開発などに取り組んでいる先進的な企業・団体を評価、表彰する制度である「第6回ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)」において、金賞(地方自治体部門)を受賞している。
系統連携困難な地域での再エネ・分散型電源の導入
地域資本を主体にした企業体が電気と熱の面的供給をするという点では、日本初の試みである。また、系統連系が困難な地域でも自営線を敷設しコージェネや太陽光発電を積極的に導入することで、分散型のエネルギーシステムの構築を行っている。遠隔地での対応も可能なCEMS(地域エネルギー管理システム)によって監視・制御しており、供給側のエネルギーマネジメントで系統への逆潮流が無いように制御し、需要側のエネルギーマネジメントにより外部の受電を最小化している。温浴施設の熱需要もふまえコージェネを運用することで全体のエネルギーコストを削減することに繋がっている。また、計画にあたって「地産地消型再生可能エネルギー面的利用等推進事業費補助金」や「地域の特性を活かしたエネルギーの地産地消促進事業費補助金」などを活用している。